芸術って何だろう。本物と偽物のあいだで見えたもの


第1章:舞台の上がすべてだった私

東京で役者をしていた20代の頃、私はずっと「舞台こそが表現のすべて」だと思っていました。大学で演劇を学び、日舞やジャズダンス、声楽、パントマイムなど、身体を使って自分を表現する術を学んできました。卒業後は劇団に所属し、演出家・役者・外部スタッフが何か月もかけてひとつの90分の舞台をつくりあげていました。その中で私は、「どう伝えるか」「どう演じるか」「どう感動をつくるか」を常に考えていました。

舞台の上では、日常では表現しきれない感情を解放できる場所がありました。照明の下、拍手の中で生きる自分。それが、私にとっての“表現”であり、“芸術”でした。


第2章:白保の祭りで受けた衝撃

石垣島・白保に移住して間もなく、初めて見た豊年祭で衝撃を受けました。

踊りも謡(うた)も、驚くほど上手くて、力強くて、魂がこもっていました。でもそこに出ている人ほとんどが、プロの表現者ではなく、ふだんは農作業をしているおじぃや会社で働く人たち。誰もが“普通の生活者”なのに、その踊りには確かな迫力と祈りが宿っていて、観る人の心をぎゅっと掴んで離さない。

なにこれ、なんでこんなに上手いの? なんでこんなに胸にくるの?

観客のために魅せるものじゃない。誰かの評価を得るためじゃない。神さまに、土地に、先祖に、祈りと感謝を捧げるための踊り。

それが、ただの踊りではなく、“本物の表現”に感じられました。


第3章:偽物と本物のあいだで、私は揺れた

そのとき、ぐらりと心が揺れました。「本物の表現?」

じゃあ、私がやってきたことはなんだったの? 舞台で感情を演じ、声を張り、心を込めて届けてきたあれは、偽物だったの?

舞台はフィクション。演劇は「偽物を本物のように見せる」世界です。

でも、それって“偽物”だからダメなんじゃなくて、“偽物”であることを前提に、そこにリアルな感情をどう乗せるかが勝負なんですよね。私はそれに本気だった。

でも。

白保で見た豊年祭の踊りは、その構造すら超えていました。演じてない。見せようとしてない。でも、心が動く。むしろ、余計な演出や演技がないからこそ、祈りの芯がそのまま伝わってくる感じがしました。

「これが、本物かもしれない……」

そんな気持ちになって、ちょっと怖くなったのを覚えています。
私は東京で、舞台の上で“本物っぽさ”を追い求めてきた。でもここには、“本物そのもの”があった。
じゃあ、私はいったい何を目指していたのか。
でも、悩み抜いた末に、こう思えるようになりました。

どちらかが正解で、どちらかが間違いなんじゃない。

どちらも“人の想いを伝えようとする行為”だという点では同じで、その形が違うだけ。表現の方法が違うだけで、心を動かす力は、どちらにもあるのだと。


第4章:芸術は、舞台の上だけにあるのか?

石垣島に来たとき、私は「もう芸術とは関係のないところで生きよう」と思っていました。
けれど、そうじゃなかった。

ここには、むしろ私が求めていた“本物の表現”があったんです。

白保の人たちは、普段は静かに暮らしています。でも、豊年祭が近づくと、村の空気ががらりと変わります。夕方になると三線の音があちこちで鳴りはじめ、踊りの練習が始まる。夜には班ごとの集まりで、踊りの振りを確認しながら島酒を飲み、笑いあう声が聞こえる。

そこには、誰に見せるでもない、誰かに褒められたいわけでもない、“暮らしの中の芸術”がありました。

どう生きるか。どう話すか。どう祈るか。

その一つひとつが、表現になる。アートになる。


第5章:人生そのものが、表現だと思えた日

私は、ここ白保で、「芸術は人生の中にあるんだ」と気づきました。

舞台の上でなくても、スポットライトを浴びなくても、人は表現して生きている。どう笑うか、どう怒るか、どう関わるか。そういう一つひとつの選択が、その人自身の“作品”になっていく。

豊年祭で踊るということは、ただの出演じゃない。白保という土地を背負って立つこと。土地の記憶、先祖の願い、集落の人たちの気持ち、それら全部を身体に乗せて舞う。

そんなことができる人たちが、ここにはたくさんいる。

だから、私は思うんです。

生きること、それ自体がアートになる瞬間って、本当にあるんだって。


最後に:豊年祭を、ぜひ“感じて”ほしい

私は今でも、豊年祭で踊る人たちを見て、心を揺さぶられます。
舞台ではない、生活の中の表現。
演出も、演技もない。だけど、観る人の心を動かす。
それって、すごくないですか?
ぜひ、一度見てみてください。白保の豊年祭。
暮らしの中に唄と踊りと祈りがあるということ。その美しさと力強さを、肌で感じてみてほしい。
ここには、“本物”があります。
あなたはどう感じるかな?

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